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月刊俳句誌「獐noRo」WEB版
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波郷には懐手の句が私の知る限りでは三句ある。 苺食ひ談了りたる懐手 句集『鶴の眼』春の章(昭和十四年八月 沙羅書店刊) 英靈車去りたる街に懐手 〃 冬の章( 〃 ) 寒椿つひに一日のふところ手 句集『風切』冬の章(昭和十八年五月 一条書房刊) この三句を見たとき、気づくのは波郷が懐手という季語を必ずしも季題として使ってはいないということである。特に一句目は季節は春である。また、三句目は冬であるが、季語としての働きは寒椿にあり、懐手には波郷としての季語ではない別の意味合いが提示されているようだ。 それを解く鍵が「わが父 波郷」(石田修大著 二〇〇〇年六月 白水社刊)にある。 【 寒椿(かんつばき)つひに一日(いちにち)のふところ手(で) 戦前の二十代の句だが、結婚して二児の父親になっても、懐手で終日無言でいることは珍しくなかった。子どもにとっては寡黙で怖い父親だった。収入源は新聞や雑誌の俳句欄の選句で、家で仕事をするのが常だったから、仕事中、傍らで漫画などを読んで声を上げて笑ったりすると、母の書いているとおり「うるさい」と叱られる。逃げだそうにも八畳二間の狭い家で、隠れる場とてなく、そういうときはひたすら息を殺して静かにしているしかなかった。 そのくせ酒が入ると上機嫌で、気前のいい父親に変身した。外で酒を飲んで帰ってきたあとなど、「修大、温子、こっちへ来い」と呼びつけて、「何かほしいものはないか」と聞き、大した額ではないが小遣いを渡してくれた。病身を気遣う母は、飲み過ぎる波郷に注意をしては「くどい」と怒られていた。一時期の波郷の飲みっぷりは確かに常軌を逸していたし、子どもは母親の味方だから、私も内心、ひどいおやじだと思わないではなかったが、それでも酔った波郷が大好きだった。】(掲出句のルビは原文のとおり。あとがきに「私自身の勉強のため漢字には可能な限り読み仮名をつけてみた。〈中略〉不勉強のため、あるいは読み方を間違えている恐れもある。あくまで参考にとどめていただきたい」とある。私・結城は「一日」を「ひとひ」と読むのだろうと考えている。) 手元の季語集には「懐手」は「冬の寒さを防ぐためだが、だらしない姿」とある。確かに行儀が悪いという意味でなら、その通りである。しかし、波郷は先の文章でも分かるようにそのような意味だけで使ってはいないのである。その精神においては、けっして「だらしない」のではない。「反俗無頼」という言葉がある。波郷の「懐手」には後者の意味が本義として存在している。 黒沢明監督の映画『用心棒』はよく出来た、娯楽作品だと思う。三船敏郎や仲代達也は適役で今でも見ごたえのあるものである。スクリーン上の彼らは大抵意味ありげな懐手で登場し、無頼を演じるのであるが、仲代は町人くずれのいかにもやくざの若造らしく、下からねめつけるような眼を使い、つっぱらかった懐手の顎の下から拳銃をちらつかせて、威嚇する。一方、三船の素浪人は一癖ありそうな風体の懐手なのである。尾羽打ち枯した浪人でありながら、不敵な面構えで宿場町を闊歩する。その懐手には威圧感がある。落魄れたとはいえ、侍としての矜持が見えてくる。ラストシーンで、三船は「さらば」とひとこと言い、懐に手を入れ向きを変えると、両肩をゆすり、うしろ姿を我々に見せて画面の遠くへ去っていく。 波郷の言葉に『芭蕉の連句などを覗きみて、人間の匂豊かな句を見、奔放な付け味を偲ぶ時、余りにも現代の俳句が俳句を忘れて別趣の文芸の後を追はうとする姿を僕は遺憾に思ふ。「古典に競ひ立つ」僕はこの言葉の大きさをしみじみと思ふ、〈中略〉伝統の前進である』(『馬酔木』昭和十四年九月号初出「続俳句愛憎」角川版『全集』第4巻所収より)がある。波郷の懐手はこのような精神における彼独特のスタイルにほかならない。 私の手元に富士見書房版の全集の第一巻だけがある。購入した覚えがないので、高島茂に貰ったものにちがいない。しかし、それがいつだったか思い出せない。考えるに「獐」創刊当時の、私が俳句を本格的に始めた頃のような気がする。「これを読んで勉強しろ」という意味でくれたのであろうが、もうひとつは「こんなことを書いたから、読んでくれ」ということもあったのだと今にして(最近、その文章を初読したので)思うのである。それを紹介して、擱筆する。 【石田波郷の一句 懐手 高島 茂 寒椿ついに一日のふところ手 波郷 波郷さんの相をときどき思い出す。決って長身蓬髪の和服すがたで、眼鏡の奥で微笑している。優しく人をなつかしむ顔である。波郷さんは着物すがたがよく似合った。白や紺の絣のとき大島のこともあるが、着ながしの姿は、なんともいえなく粋である。誰いうとなしに「ふり向かない波郷」と云われ、その男ぶりに周囲の人たちは魅せられたものである。因に波郷さんの写真をみると洋服姿のものは少ない。 『波郷百句』現代俳句杜発行の自註によると「その頃新宿での酒友小澤不二夫が脚色してムーラン・ルージュに上演された。左卜全、外崎恵美子等が出演した。作者は脚色者の才に一驚した」とある。昭和十年代、大東亜戦争に突入するまで、赤い風車のかかったムーランルージュは、新宿で唯一の軽演劇の常設館で、後年有名になった俳優たちも多く出ている。山の手の小市民・インテリーにファンをもって日夜賑わった。月に二の替りの寸劇・レビューは愉しく、明日待子・小柳ナナ子はとくに人気のあった踊子であった。私も月に二回の替りを待ちどおしい位に通った。七時からは割引料金で、一と芝居とレビューが観られるのがたのしかった。昭和十四年、「寒椿ついに一日の懐手」をムーランルージュで私も観ている。その時の印象が、石田波郷の名と、この俳句をはじめて知った。劇の内容は定ではないが、波郷さんに似合せた、和服すがたの、あまり売れない小説家の、ある冬の午后の物語。ふところ手をして庭に立っている主人公に愚痴をいう奥さん。庭掃きの老人、用聞きとの会話を、時局的に書けないまま虚しく昏てゆく一日。寒椿にライトを合せて暗くなる幕切れに余韻があった。小説家を演じた俳優は藤尾純という人で映画女優中原早苗さんのお父さん。 句集『鶴の眼』に〈英霊車去りたる街に嬢手〉〈苺食ひ談了りたる懐手〉がある。和服を着る機会の少なくなった今日、「ふところ手」という冬の季語もなくなりつつある。着流しの波郷さんが、友二・桂郎・三鬼・辰之助・一庭人・午次郎氏らと夜の巷に、置酒歓語した。その時代をこの句からかぎりなく再現することが出来る。(たかしま・しげる 俳人)】(石田波郷全集 第1巻 富士見書房刊 月報 1 昭和62年7月 目次 惜命の人〈鼎談〉山本健吉・飯田龍太・角川春樹 懐手〈石田波郷の一句〉高島茂 初出) 追記・文中のあきらかに誤字、脱字と思われるものは、文脈を変更することなく私・結城音彦の責任で校訂した。 了 人気blogランキングに参加しています ワン・クリック応援を
by yukit1915
| 2005-12-25 21:49
| 結城音彦のコンパクトメモリー
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